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国際シンポジウム

 

Adrian White 

Clinical Research Fellow
General Practice and Primary Care
Peninsula Medical School, UK

腰痛症は誰もが経験する疾患であり、西洋人においても約25%が一度は罹患する。また、全世界における身体障害の大きな原因となっている。近年のCohenらの報告によれば、その原因として、機械的要因(80-90%)、神経学的要因(5-15%)があり、非機械的要因としては腫瘍(1-2%)、内臓関連痛(1-2%)、その他(線維筋痛症、心理的要因など;2-4%)が挙げられている。
 慢性化にいたる危険因子としては、心理的要因(例えば、恐怖心回避)や職業的要因(例えば、職務不満足)などがある。
 多くの例では、注意深く問診をとり検査することにより上記分類を行い、どの患者がさらに検査を進めなければならないかを決定する。
 急性腰痛症患者の多くは、何も治療的介入を行わずに良くなることも多い。たいていの治療的介入は、効果が小さく、効果の持続も比較的短い。急性腰痛症において、エビデンスに基づいて出てきた最も大きな変化は、「安静臥床」から「むしろ動くほうが良い」ということへのシフトである。補完代替医療、なかでも鍼灸、マッサージ、脊椎矯正などはますます利用されるようになってきているし、これらの治療が痛みを軽減し機能回復を促すというエビデンスもどんどん集積されてきている。イギリスのNICE(National Institute for Healthcare and Clinical Excellence)では、鍼の使用を含めたガイドラインの草案が出来上がっている。

 

 

Konrad Streitberger

University Clinic for Anaesthesiology and Pain Therapy
Inselspital, Bern University Hospital, Switzerland

【背景】2000年にドイツで「医師と健康保険計画の連邦政府合同委員会」により、慢性痛に対してガイドラインに基づく従来の治療と鍼治療の効果を比較するプロジェクトが開始された。このプロジェクトでは、「ドイツ鍼治療試験;German Acupuncture Trials (GERAC)」の一部として、4つの大規模ランダム化試験が行われ、片頭痛、緊張性頭痛、膝関節炎、腰痛の治療において、鍼治療が偽鍼やガイドラインに基づく標準治療と比較して効果的かどうかが検証された(1,2)。本論文では、慢性腰痛を評価したGERAC試験(3,4)について報告する。
【方法】GERAC試験は、全て患者と評価者をマスクしたランダム化比較試験(RCT)で行われた。腰痛の試験では、ドイツ国内の340施設において、平均8年の慢性腰痛の病歴を持つ1162名の患者を対象とした。患者は、中医学理論による真の鍼治療(n=387)、非経穴部位浅刺による偽鍼(n=387)、薬物療法・理学療法・運動療法の併用による通常治療(n=388)のどれかを受けた。治療に効果的な反応を示した患者にはさらに5セッションの治療を追加した。プライマリー・アウトカムは、治療6か月後に、Van Korffの慢性疼痛評価スケール質問票で3つの痛みに関わる項目で33%以上の改善がみられるか、またはHanover背部機能障害質問票で12%以上の改善がみられるかどうかで判断した。
【結果】10〜15回のセッションで、真の鍼治療および偽鍼は、通常の治療より効果的に痛みを軽減した。治療6か月後の改善率は、鍼治療群では47.6%、偽鍼群では44.2%、通常治療群では27.4%であった。鍼治療群と偽鍼群の差は3.4%(95%信頼区間、-3.7〜10.3%;P=0.39)、鍼治療群と通常治療群の差は20.2%(95%信頼区間、13.4〜26.7%;P<0.001)、偽鍼群と通常治療群の差は16.8%(95%信頼区間、10.1〜23.4%;P<0.001)であった。
【結論】体鍼は、少なくとも6か月間慢性腰痛を改善する効果的な方法である。鍼治療(真の鍼治療、偽鍼いずれも)は、通常治療のほぼ2倍の効果があった。これらの結果に基づいて、鍼治療は現在ドイツの公共医療として認識されている。しかしながら、中医学理論に則った鍼の特異的な治療部位の意義については未だ説明できないでいる。

 

 

Claudia M. Witt

Professor for Complementary Medicine
Vice Director
Institute for Social Medicine, Epidemiology and Health Economics
Charité University Medical Center, Germany

【目的】我々は鍼治療の1)効果(日常の治療に付け加えた場合)および 2)微小刺激鍼治療群(minimal acupuncture)と治療待機対照群(waiting list control)と比較による効能について評価した。
【方法】 1) 鍼治療の日常臨床研究(ARC)では、3か月にわたり最大15回までの鍼治療を受ける群と鍼を全く受けない対照群に患者をランダムに割り付けた。ランダム割付を断った患者については、前向きな観察的研究により経過を追った。全ての参加者はについて、通常の医療を付加的に受けることは許可された。2) 鍼治療のランダム化試験(ART)では、患者は、半標準化された鍼治療と微小刺激鍼治療(非経穴部位への浅い刺鍼)、または治療待機対照群にランダムに割り当てられた。いずれの鍼治療群も8週間にわたり12回の治療を受けた。
【結果】1) ARCでは、11,630人の患者(年齢52.9±13.7歳;女性59%)のうち、3093人がランダム割付された。3か月時点で、腰背機能は鍼治療群では、12.1±0.4 (平均±標準誤差)ポイント改善し74.5±0.4 ポイントとなった。対照群では、2.7±0.4ポイント改善し、65.1±0.4ポイントとなった〔差9.4(95%信頼区間8.3-10.5); p<0.001〕。2)  ARTでは、全体で298人の患者(年齢59.9歳;女性67.8%)が対象となった。治療開始前と8週後の比較では、痛みの強さの減少は、鍼治療群で28.7±30.3 mm、微小刺激鍼治療群で23.6±31.0 mm、治療待機対照群で6.9±22.0 mmであった。鍼治療群と微小刺激鍼治療群との差は5.1 mm(95%信頼区間-3.7から13.9;p=0.26)で、鍼治療群と治療待機対照群との差は21.7 mm(95%信頼区間13.9-30.0;p<0.001)であった。
【結論】鍼治療は、治療待機対照群よりも優れていたが、微小刺激鍼治療とは差がなかった。通常の治療に鍼治療を加えると、通常の治療単独よりも効果が大きかった。

キーワード:鍼治療、腰痛、ランダム化比較試験、効能、効果

 

 

Andrea D. Furlan

Institute for Work & Health, Toronto, ON
University of Toronto, Canada

このレビューの目的は、慢性腰痛に対する鍼治療の効果を評価することである。そこで、鍼治療と、無治療、偽鍼、他の治療法との比較を行った。
このレビューでは、Cochrane Back Review Groupで推奨されている検索方法を用い、MEDLINE, EMBASE, CENTRAL のデータベースを用いて、2008年7月までの論文を対象に言語の制限を設けずに検索を行った。また、無作為化比較対照試験(RCT)のみを対象とした。論文の質の評価には、Cochrane Back Review Group (Van Tulder et al, 2003)で推奨されている11項目を用いた。
3つのRCT(1つは質が高く、2つは質が低い)では、痛みと運動機能についての項目で、鍼治療は無治療より効果があった。しかし、これらの評価は短期間にとどまっていた。
6つのRCT(3つは質が高く、3つは質が低い)では、痛みと運動機能についての項目で、鍼治療は偽鍼と効果の差はなかった。しかし、2つの質の高い試験では、鍼治療は偽鍼に比べて、いくつか利点があった。
5つのRCT(4つは質が高く、1つは質が低い)では、鍼治療と他の治療法(マッサージ、セルフケア、通常治療、TENS、脊椎の徒手整復)を比較していたが、多様な結果であった。
7つのRCT(5つは質が高く、2つは質が低い)では、他の治療法(多くは運動療法と理学療法)と鍼治療の併用は、他の治療法単独の場合と比較して一貫した有効性を示した。

結論
・鍼治療は無治療より有益である。
・鍼治療がシャム鍼に対して有益であるという確定的なエビデンスはない。つまり、プラセボを越える治療効果を明らかにするためには、より多くの研究が必要である。
・鍼治療は他の治療法より有益であるとは言えない。
・他の治療法に鍼治療を加えると有効であるという一貫したエビデンスがある。

 

 

Karen J. Sherman

Senior Scientific Investigator 
Group Health Center for Health Studies, USA

【背景】 腰痛に対する鍼の効果について多くの議論があるのは、それらの研究の質が低いためである。近年の大規模で綿密に計画されたヨーロッパの臨床試験によると、真の鍼とシャム鍼は短期的には同程度の効果を示すこと、また、通常の治療に鍼治療を加えることは通常の治療単独の場合よりも効果的であることが示唆されている。我々は、二部位ランダム化比較試験を行い、鍼の刺入部位および刺入法がいかに治療効果に重要な影響を及ぼすかを評価した。
【方法】  慢性腰痛患者638人を、個別鍼治療群、標準的鍼治療群、偽鍼治療群、通常治療群にランダムに割り付けた。その上で各群には、7週間にわたり熟練した鍼灸師による治療を10回行った。評価は、腰背部に関連した機能や症状について、治療前、治療開始後8、26、52週に、割付を知らない電話面接官により行った。
【結果】 通常治療群と比較して、真の鍼群または偽鍼群は、治療終了時に、機能障害(60% vs. 39%; p<0.0001)や症状(50% vs. 32%; p=0.0004)において、臨床的に有意な改善を示し、また1年にわたる追跡においても機能障害に対する効果は減弱しながらも持続していた。
【結論】 鍼治療は通常治療に比べ、より効果的であった。しかし、個別化した選穴や鍼刺入はいずれも効果に関与しなかった。しかしながら、これらの結果は、他の大規模な試験に繋がっていくと考えられる。すなわち、少なくとも3つ異なる見方(例えば、医学的有効性の試験から見た場合、伝統的な訓練を受けた鍼灸師から見た場合、全体系の研究者から見た場合)により解釈できていくと思われる。慢性腰痛に対する効果的な治療法に関する現在の我々の知見の観点から、今後の研究や臨床に関わる提案をしたいと考えている。

キーワード:アメリカ合衆国・鍼治療・慢性腰痛・臨床試験・治療

 

 

劉保延 Liu Bao yan

中国中医科学院 副院長

中医学では腰椎症は「腰痛」あるいは「痺症」のカテゴリーに分類される。腰椎症は、現在、鍼灸の領域では一般的な疾患であり、腰椎椎間板、靱帯、脊柱管や生理的弯曲、腰椎の支持組織の病理学的な変性によって引き起こされる多くの疾患を含む。腰椎症の主な臨床症状は、腰痛、下肢の痛みやしびれ、腰背部の運動制限、セルフケア能力の低下などである。
腰椎症に対する鍼灸治療について検索すると、中国では1994年から2008年の間に2489論文が出版されていて、そのうち54論文がランダム化比較試験(RCT)であった。これらの研究では、鍼灸が、腰椎症の症状である腰痛、下肢の痛みやしびれ、歩行障害、感覚障害、下肢伸展挙上テスト、筋力やセルフケア能力を有意に改善することが示されている。また、鍼灸による臨床治療効果は、他の治療法や薬物による単独の治療と比べて明らかに優れていることを示している。一方、重篤な副作用については、これらの研究では全くみられなかった。しかしながら、コントロール群の選択やマスキング、治療データの管理についてはさらなる改善が必要である。
経穴の特性や鍼の手技による効果、鍼灸が腰椎症を改善するメカニズムの研究に目を向けるべきである。そうすることが、今後、鍼灸の治療効果をさらに改善し、臨床研究に関して高い質の論文を得ることに繋がると考えられる。
腰痛症に対する鍼灸の治療効果のメカニズムの研究は、主に次の観点で行われている。
1)鍼灸は明らかに痛みを緩和する効果があり、神経系や神経伝達物質に影響を与え、中枢からの有害物質の放出を促進し、末梢モノアミン性神経伝達物質を抑制する。
2)鍼灸は、神経根周囲の微小循環を改善、炎症性メディエーターを除去、有害情報の伝達を抑制、筋スパズムを緩和、神経根の炎症や浮腫を軽減して、疼痛を緩和する。
3)鍼灸は、末梢性の炎症組織のオピオイドの放出を促進することで免疫系を調節する。
現在、腰椎症の動物モデルが確立しており、神経生理学、神経伝達物質、鎮痛物質、組織病理学、微細構造といった観点からより深く研究されるべきである。

 

 

津嘉山洋

 

津嘉山洋

国立大学法人 筑波技術大学保健科学部鍼灸学専攻 教授

私たちが文献データベースから腰痛に対する鍼治療のEvidenceを検索、抽出し分析してみたのは1995年でした。Medlineと医中誌を利用して、文献を検索、収集しました。治療効果の比較を行っていた文献は、日本語で12、英語で13ありました。偽鍼を対照群とした研究は否定的な傾向があり、鍼と無治療の比較や保存療法に鍼を加えた場合とそうしなかった場合の比較では良い結果が得られていました。
1998年にErnst(1998a)、1999年にTulder(1999)のSRが出版されました。研究の質の低さや異質性が指摘されましたが、前者はMeta-analysisを行い、偽鍼をのぞいた種々の対照群と比較して鍼の効果を認めました。後者では種々の対照群に対して鍼の有利さを証明できないと結論しました。
これら初期段階の臨床試験においては、研究方法論的な品質の評価は総じて低いものでした。ランダム化比較試験の研究方法論を鍼臨床試験へ手探りで導入していた時期であり、その試みは簡単なものではありませんでした。ランダム化比較試験などの方法論は臨床薬理学で発展して来たもので、薬物療法の性質によって特徴づけられています。言うまでもなく鍼治療は複雑な介入方法の一つであり、鍼治療の処方をどの様なパラメーターで記述できるのかについても、いまだに明確ではありません。
鍼治療の特異的効果を検証するための鍼臨床試験の方法論上の議論が、適切な鍼介入および適切な鍼対照群の設定方法において行われました。2005年にManheimer(2005)とFurlan(2005)の2つのSRが出版され、何れも腰痛に対する鍼の特異的効果を認めていたのは方法論上の発展が第二種の過誤を減少させた結果であると私たちは考えていました。
しかしながら、その後にGerman Studiesなど症例数が多く、影響力の大きい試験の結果が出版されました。腰痛に対する鍼の特異的効果について現存するEvidenceを統合すると否定的な傾向に天秤は傾き、我々は困惑することになりました。現時点に於いて、この隘路を脱するためにどの様な方策が存在するのか、検討する必要があると考えます。

キーワード:鍼治療、特異的効果、腰痛、研究方法論、医療技術評価

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